徒然草: 南フランス① - "田舎者"




フランス仕様のベアブレスレットと、極東バッグを携えて。


都会の人間になって、はやくも半年以上が経った。どこからが都会で、どこからが田舎なのかのボーダーラインは定かではないが、少なくとも都市部に生息する人間である必要条件は満たしているように思える。

なんとなく、都会への憧れみたいなものは昔からなかった。というか、田んぼや山に囲まれず、ビル群にも囲われず、日本人の大部分がそうであるように、特に歴史やバックグラウンドがない、田舎寄りのニュータウン育ちの自分にとっては、そこそこ便利でそこそこ悠々自適な暮らしが送れる場所として、適度な愛着を感じていた。ということで、都会への憧れも、田舎暮らしの憧憬も特になかった。土地に飢えていなかった。

が、いつしか文化みたいなものとか、美みたいなものに触れるにつれて、風土の魅力に気がつくようになった。バックグラウンドが異なる人々と話すたびに目から鱗が落ちる思いをした。東京生まれの同居人からは田舎者いじり、いや田舎者いびりの被害に定期的にあっているが、それもバックグラウンドの違いからくる表現、ということにしておこう。

バルセロナから電車を乗り継ぐこと、7時間ほど。灼熱のトゥールーズに降り立った。フランス南西部、南フランスという潮風が付きまとうワードとは異なる、山あいの街。今年のヨーロッパは観測史上最も暑い6月だった。サウナのような街中をほとんどの人が裸同然の姿で過ごしている。No ファッション。

ここにはただ泊まるだけにきた。翌日の目的地に辿り着くには、1日の移動では足りなかった。

チェックインをしようとホテルに向かうと、予約が入っていないと告げられる。1ヶ月先の日付で予約していたのだ。自分に対するFワードが脳内を駆け巡るが、心配しないで、部屋は用意できるよと鈍臭いハットを被ったおじさんが、片目ウインクで鍵を手配してくれた。一泊60ユーロ。自然光の入らない、嫌な煉瓦色の壁の、蒸し暑い狭い部屋。

翌朝、朝イチの列車でさらに山奥へ向かう。フランスの列車というだけでも心配なのに、このローカル線は約束の時間に間に合うのだろうか。なんて携帯を見やると、電波もほぼ入っていない。入らなければ微妙に返さないといけない連絡や、不要な情報から離れられる。こういうのも、贅沢ですね。

なんて余裕をぶっこいていたら遅延のお知らせ。ごめん、遅れるとテキストを打つと、エアコン効いてますように!との返信。大丈夫、まったく効いてません。




心配も束の間、1.5時間ほどで目的地へ。線路以外何もない、無人駅。面白いものを探しに、電車を乗り継ぎ田舎へ。この時点で無理やり面白いものを見出そうとしてしまうんじゃないかと、ふと心配になる。プロセスは大切だけど、本質じゃない。

最終目的地には最寄駅から車で30分ほど。公共交通機関はないので、自力だとレンタカーもしくはタクシーしか選択肢がない。僕は免許を持っていないので、タクシーしかない。けれどそのタクシーも電話で呼ばないといけない。フランス語は、もちろん話せない。というわけで迎えに来てくれた。ありがとうございます。

で、ようやく辿り着いた。山奥の集落、サン・アントナン・ノーブル・ヴァル。中世の街並みが残る、美しい村です。観光客もちらほらと見ますが、トゥーマッチではないくらい。


ここでアンティーク・ショップ、"Le Batel"(= The Boatの意。このお店が位置するフランス南西部、オクシタン地方の言葉。)を営むのがPurple magazineのファウンダーであるエレン・フライスとフォトグラファー / 画家のアンディ・ウィルキンソン。残念ながらエレンさんには会えなかったが、アンディさんが案内してくれた。



灼熱の外と違って、少し湿り気のあるひんやりした空気がたまった店内。16世紀の民家らしい。ほとんど手付かずの内装は、昔の火事の後が残っているんだよ、と炭化した柱を指差して教えてくれる。いたってシンプルで懐かしい古着や、2人が色んな場所で集めたガラクタや古いもの、古書。交流のあるアーティストの作品と、いくつかの彼女たち自身の作品。

置いてあるものが何か際立って特別かというとそうではない。それはわかっていた。いくつか気になるものをピックして、買いたいと伝える。フランスのローカルレーベルのシルクニットと、日本ではあまりお目にかかれない真鍮の花瓶。それといくつかのガラクタ。作品も買いたかったが、今回は断念。自分が店内を見せてもらっている間も、近所の人や観光客の老夫婦が顔をのぞかせる。何も買うことなく、にこやかに出ていく。美しいお店には、美しい風景がある。

そのあと街中をアテンドしてもらって、軽いランチをしながらアンディさんのセントマーチン時代の話や文学の話、最近気になっているフォトグラファーの話やロンドンのファッションの話。ざっくりとした人生の話。これからやるべきことの話など、思わず花が咲き、数時間の滞在は終わった。


知的でチャーミング。「30歳で写真を始め、40歳で絵画を始めた。50歳で立体作品を始める。次はなんでしょうね?」

何か特別なもの、体験をしたわけではない。見ず知らずの人に数時間をかけて会いに行き、見知らぬ土地で日常と変わらぬ会話をし、またねと言って手を振る。

仕事に繋げようとすればいくらでもできるけれど、そんなことよりも他人と向き合い、自分と向き合うこの時間を丁寧に噛み締めることが一番の収穫かもしれない。

どうしてわざわざこんな文字通り人里離れた場所で商売をしているの?お金稼ぎが目的でないにしろ、パリジャンとイギリス人の作家が縁もゆかりもない場所でどうして?って聞くと、「Just want to be.」do ではなく be ですか。そうですか。

聞き間違いかもしれないけれど、やけにしっくりきた。




ヨーロッパでしか買えないトープカラーのBic。3ユーロ = ¥600。たけえな。当然無くしましたよ。




続。

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